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Issue 04 / Stays

ホテルの静けさは、どこから来るのか

客室設計者に聞く、遮音と「気配」の話。

取材・文: LOWKEY 編集部2026年12月読了 9分

ホテルの部屋で眠れない夜、原因はたいてい一つではない。廊下の足音と隣室のテレビ、空調と扉のラッチ、そして窓の外。客室の設計を20年続けてきた建築家に、この5つの音を一つずつ聞いた。

廊下の足音

「足音は、壁ではなく床から来ます」。廊下のカーペットの下に何を敷くかで、客室に届く音は変わる。彼が関わった都心のホテルでは、廊下の下地に厚さ10ミリの制振材を入れて、客室側で足音がほとんど測れない程度まで下げた。ただし、それで泊まる人が静かだと感じるかは別の話だという。「足音が完全に消えると、廊下に誰もいないように感じる。深夜のホテルで、それを不安に思う人は少なくありません」

隣室のテレビ

隣の部屋との壁は、遮音の等級で語られる。彼が目安にするのは、隣室の会話が言葉として聞き取れない程度だ。「テレビの音が聞こえること自体より、何を言っているか分かることが眠りを妨げます。情報のある音は、脳が追いかけてしまう」。逆に言えば、言葉に聞こえない程度の低いざわめきは、気配として残していい。

空調

空調は、客室でいちばん長く鳴っている音だ。設計者はこれを消そうとしない。「一晩中鳴っている一定の音は、ほかの音を覆い隠してくれます。問題は音量ではなく、音の変化です」。吹き出しの風量が数分おきに変わる機器は、そのたびに眠りを浅くする。彼が指定するのは、風量が一定で音の高さが低い機種だ。「静かな空調より、変わらない空調を選びます」

扉のラッチ

深夜2時の「カチャッ」は、音量でいえば大きくない。それでも目が覚めるのは、短くて高い音だからだ。彼は扉の金物を選ぶとき、閉まる音を実際に聞く。「クローザーで閉じる速さを落とし、ラッチに樹脂を入れる。それだけで、隣の部屋の人が帰ってきたことを、音ではなく気配として受け取れるようになります」

窓の外

窓は、外の音に対していちばん弱い。二重サッシで交通の音は下げられるが、彼はそこにも線を引く。「都心のホテルで外の音を完全に消すと、部屋が街から切り離されたように感じます。窓を開けたときに戻ってくる街の音量と、閉めたときの静けさに、差をつけすぎないようにしています」

静けさと、気配

5つの音を聞き終えて分かったのは、彼が無音を目指していないことだった。消すのは、言葉として聞こえる音と、急に変わる音。残すのは、一定の低い音と、人がいるという気配だ。

完全に静かな部屋は、眠れる部屋ではありません。安心して眠れるのは、誰かがいる気配が薄く残っている部屋です。

建物でできるのは、ここまでだという。それより先は建物では扱えない。同じ部屋で眠る人のいびきや、初めての部屋で高ぶった自分の神経のことだ。「そこから先は、泊まる人が自分で選ぶ部分です」。建築家の仕事は、その手前までを静かにすることだった。

取材協力者の希望により、氏名と設計したホテル名は伏せています。

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